イラク内務省に「死の部隊」 陰にシーア派民兵


◎正式政府の発足を目指すイラクで、治安組織を管轄する内務省所属の秘密部隊が拷問、暗殺に手を染めている疑惑が浮上した。部隊を牛耳るのはイスラムシーア派民兵組織、標的は対抗するスンニ派武装勢力だという。かつてシーア派を弾圧した旧フセイン政権とそっくりの手法を採り、その残忍さから「死の部隊」と呼ばれ、新政権の枠組みづくりを巡る交渉にも影響している。

 「死の部隊」の存在は、昨年4月にシーア派主導の移行政府が発足した直後からささやかれた。警官に拘束されたスンニ派が、虐殺遺体で見つかる事件が続出。スンニ派イラクイスラム党は、被害者は300人以上と推計し、内務相を出しているシーア派政党「イスラム革命最高評議会(SCIRI)」を強く非難している。

 「死の部隊」の一つは、首都北部に本部を置く治安維持部隊「ブルカン(火山)旅団」とされる。これに05年3〜10月に在籍した内務省警護官(30)が、朝日新聞イラク人助手に実態を証言した。旅団は内務省の一機関だが、実態はシーア派民兵組織。イランで組織されたSCIRI配下の「バドル軍」そのものだという。

 旅団に拘束された容疑者は、容疑や自白状況によってグループに振り分けられる。「電気組」というグループに振り分けられると電気による拷問を受け、「つるし組」だと天井からつるす拷問を受ける。「空間組」に振り分けられた容疑者は処刑され、砂漠地帯に死体を捨てられる。

 05年8月、警察に拘束された後、川で遺体で見つかったスンニ派37人を、この警護官は旅団本部に連行された直後に目撃した。米兵も付き添っていたが、本部到着後に立ち去った。「米軍は少なくとも拷問は知っていたはずだ」と話す。

 同旅団に拷問を受けた後に釈放されたという楽器店主(35)は「拘束時に米兵がいたので、処刑はないなと安心したが、結局、内務省で拷問された」と話した。

 米軍は昨年11月、内務省施設で虐待されていた拘束者170人を救出。1月末には暗殺容疑で警察官4人を拘束するなど摘発を始めた。2月にはタラバニ大統領や米大使が「死の部隊」を公然と非難し始め、一時、活動は静まった。

 しかし2月末、新たにスンニ派政党幹部が警官に拘束後、虐殺される事件が発生。各地で制服警官による拘束後の暗殺が報告されている。スンニ派は、シーア派聖地、アスカリ廟(びょう)爆破事件後の騒乱を利用し、再び部隊が活動を始めたと非難している。

 正式政府に向けた政権協議では、首相、財務相、内務相、石油相を独占するシーア派に対し、スンニ派クルド人勢力、世俗的なアラウィ元首相派に加え、米国も「死の部隊」の問題を指摘することで強く譲歩を迫っており、政治問題化している。





■来春に全面撤退計画 イラクの米英軍と英紙報道


◎【ロンドン5日共同】5日付の英紙サンデー・テレグラフなどは、国防筋の情報として、米英両国がイラクに駐留するすべての兵員を2007年春に撤退させる計画を進めていると報じた。

ロイター通信によると、米国防総省の報道担当者は「そのような計画はない」と報道を否定した。

同紙によると、両国政府は駐留軍の存在自体が、イラクの「平和に向けた主要な障害」との認識で一致。計画によると、今後1年間の部隊撤退は小規模にとどまるが、来春の段階でイラク新政府が発足して大多数の国民の支持を得ていることが確認されれば、一斉に撤退を開始する予定。




■タラバニ大統領、ジャファリ首相指名に反対 イラク


イラク移行政府のタラバニ大統領は4日、イラク正式政府の組閣について、「挙国一致内閣づくりの障害になる」として、ジャファリ現首相の首相指名に反対する意向を示した。ロイター通信などが伝えた。イラクの新政府づくりはシーア派聖地の爆破事件とその後の混乱が重なり、混迷している。

 ジャファリ首相に対しては、シーア派民兵の制御に失敗したなどとして、スンニ派などから「分裂をもたらした」と強い批判が出ていた。

 一方、クルド人関係者がAP通信に語ったところでは、北部の産油地キルクーククルド地域編入を巡る駆け引きが、大統領の発言の背景にあるという。大統領率いるクルド人勢力は、キルクークを手に入れて石油収入を確保することを求めている。だが、ジャファリ首相が先週、トルコを訪問した際、キルクーククルド地域編入に反対する考えをトルコ側に示したという。(朝日)