■風刺画掲載のデンマーク紙に国内報道賞 右派路線幾度と物議


◎【ロンドン=蔭山実】イスラム教の預言者ムハンマドの風刺漫画を掲載してイスラム教徒らによる世界規模での抗議行動の発端を作ったデンマーク紙ユランズ・ポステンが二十三日、表現の自由を守ったとして、国内の報道機関に授与される「ビクトル賞」に選ばれた。同紙も授賞を受け入れており、イスラム世界はさらなる挑発と受け取り、反発を強めかねない。

 ユランズ・ポステンは一八七一年創刊で、百三十五年の歴史を持つ。創刊当初から政府情報をいち早く入手する速報態勢で他紙を抑え、デンマークの有力紙の一つにのし上がったという。


 部数は平日が約十五万部、日曜紙が約二十万部で、デンマークでは最大級。首都コペンハーゲンユトランド半島東部のオーフスにそれぞれ本社を持ち、国内四都市に支社、海外には欧米の主要都市とクアラルンプール、ケープタウンの計十一カ所に支局を構える。


 論調は創刊時から保守的で、現在まで基本的に右派路線を堅持している。ただ、これまでも物議をかもす報道で知られ、第二次大戦前はイタリアのムソリーニ政権を支持する記事を掲載。冷戦時代は徹底した反共路線を取り、ソ連を糾弾する記事で当時のフルシチョフ首相がデンマーク訪問を取りやめる事態を引き起こしている。


 逆に九二年には移民受け入れ政策に反対する政党を攻撃して保守勢力から批判を浴び、同紙の元記者はAP通信に「ユランズ・ポステンは政治的には常に中道右派だったが、右派勢力にも立ち向かうことができた」と語った。


 経営的にも、論調ではまったく逆の左派路線を取る有力紙、ポリチケンと二〇〇三年に経営統合しつつ、相互に報道の自主性を尊重するという異例の形を取っている。


 今回の風刺漫画については反移民感情の表れと見る向きもあるが、漫画を掲載した編集担当者のフレミング・ローズ氏は「欧州の文化関係者の間に自己検閲の傾向があり、その論議を始めるために漫画の作成を依頼した」と述べ、ムハンマドを批判する意図はなかったとしている。


 ユランズ・ポステンの編集長は抗議を受けてイスラム教徒らを傷つけたとして謝罪したものの、表現の自由を尊重する立場から漫画の掲載自体は正当だと主張している。「無期限の休暇」という処分を受けたローズ氏は「漫画掲載の経緯に誤りはない」とし、謝罪する考えは一切みせていない。(産経)