パレスチナ 財政危機強まる ハマスに国際社会圧力


◎【カイロ=加納洋人】パレスチナ評議会で最大勢力となったイスラム原理主義組織ハマスが十九日、新首相にイスマイル・ハニヤ氏(42)の擁立を決めたことで、新政権発足に向けた動きが本格的に始まった。しかし、武装闘争方針を堅持するハマスに対する国際社会の警戒感は根強く、アッバス議長は、国際的な圧力により、自治政府の財政状況が危機にひんしていると危機感を強めている。ハマス主導の新政権は発足前から難題に直面した格好だ。

 ガザからの報道によると、ハニヤ氏は十九日、イスラエル政府が同日、ハマス主導政権の発足をにらみ、対パレスチナ制裁措置を閣議決定したことに対し、「パレスチナ人の民主的な選択(評議会選挙)を無視した決定だ」と批判したうえで、「新政府は制裁に屈することはない」と述べた。


 ハマスは、アラブ、イスラム諸国に支援を要請していく方針で、政治部門責任者のハレド・マシャアル氏が十九日、イランを訪問するなど、欧米以外からの支援取り付けを図っている。


 一方、イスラエルは今後、段階的にパレスチナへの圧力を強めていく方針だ。さらに、米国が自治政府への援助資金のうち五千万ドルの返還を求めるなど、国際社会の圧力も強まっている。


 こうした中、アッバス議長は十九日、「すでに援助資金が減り始め、自治政府は財政危機に直面している」と危機感をあらわにした。議長は評議会での演説で、ハマスに対し、自治政府イスラエルの合意事項の順守や、パレスチナ新和平案(ロードマップ)などに基づき和平交渉を再開することなどを求めた。


 しかし、ハマスは「議長とハマスの政策には大きな差がある」として、対イスラエル武装闘争方針を堅持する姿勢を崩しておらず、議長との路線対立も表面化させている。ハニヤ氏は「議長との路線の違いは、話し合いで解決してゆく」と述べている。しかし、両者の溝が埋まらない場合、議長によるハニヤ氏の公式首相指名が遅れる可能性も指摘されている。(産経)



ハマスファタハ幹部と連立協議へ


パレスチナ自治政府アッバス議長は20日、ガザ市でイスラム過激派ハマスの幹部らと会談し、自治評議会(国会に相当)で過半数を握るハマス首相候補に指名したハニヤ氏に対し組閣を要請することで合意した。イスラエルメディアによると、議長は同日、旧主流派ファタハの新政権参加について「まだ参加しないと決めていない」と含みのある発言をした。新政権への要求に応じればファタハが参加する可能性を示唆した発言とみられ、ファタハ参加の動向次第で情勢は大きく変わりそうだ。

 これまで消極的な立場だったファタハが一転して参加するとすれば、ハマスイスラエルとの過去の和平合意の尊重や暴力の停止を求められる。

 アッバス議長が新評議会の招集日に演説で表明したもので、イスラエルや米国、欧州連合(EU)が援助継続の条件の一つとするイスラエルの存在の承認は含まれていない。過去の合意の尊重が間接的にイスラエルの存在を認めることになると解釈できるためだ。

 ハマスイスラエルの存在については認めない方針を繰り返している。しかし、対イスラエル交渉をファタハが担うような形で組閣し、ハマスが過去の合意尊重や暴力の停止を事実上認めたと解釈できるような対応をとれば、西側援助国の中でハマスを評価するところが出てくるだろう。

 その場合、イスラエルと米が孤立する可能性がある。とくにイスラエルは、新内閣の行方を待たずに「ハマスが一部加わるだけでもテロ体制になり、いっさいの接触を断つ」(オルメルト首相代行)と、本来は自治政府のものである関税などの送金を停止した。

 国連幹部やカーター元米大統領が批判しているが、イスラエルは3月末の総選挙に向けて国民に「弱腰」と映る対応をとりにくく、ジレンマに直面しそうだ。

 ファタハが参加しなければ、ハマスは孤立する。西側援助国は過去の和平合意を尊重しないハマス中心の新内閣ができれば、援助継続の見直しをせざるを得ない。自治政府の財政は窮乏し、日々の暮らしに困る民衆がさらに増える。

 また、イスラエルに対するテロが増加する恐れがある。イスラエル側は報復攻撃を強化すると同時に、大規模入植地を除くヨルダン川西岸から一方的な撤退を行い、独自の境界線を引くだろう。それは将来のパレスチナ国家に想定されている領土をかなり侵食するものになりそうだ。

 境界画定後はパレスチナ側との交流を極度に制限し、パレスチナ経済はいっそう疲弊する。

 アッバス議長はこんな状況を防ぐため、ハマス中心の組閣を認めないだろう。ハマスが再検討を拒否した場合、議長は暫定憲法にあたる基本法に基づいて評議会を解散し、やり直し選挙を強行する可能性がある。(朝日)