■風刺漫画 パキスタン政権ジレンマ 市民の怒り米に矛先


◎【バンコク=岩田智雄】イスラム教の預言者ムハンマドの風刺漫画掲載問題で、パキスタンの抗議行動が激化している。矛先は米国をはじめ、親米路線をとるムシャラフ政権にも向けられており、政府は欧米との関係に気を配りつつ、市民の怒りにも配慮するという難しい対応を迫られている。

 風刺漫画掲載に抗議するデモはパキスタン各地で頻発し、欧米系施設が相次いで焼き打ちされたほか、これまでに五人が死亡する事態に発展している。政府は十九日、イスラマバードでの大規模デモを警戒し、イスラム保守系野党の指導者らを多数拘束。これに反発する野党は、全国規模のデモやゼネストを呼びかけており、来月上旬のブッシュ米大統領の訪問を前に抗議デモはいっそう激しさを増しそうな情勢だ。


 パキスタンではこれまでにも、事あるごとに反米デモが起きている。先月、米機が国際テロ組織アルカーイダの幹部殺害を目的に北部の村を空爆した際には全国で抗議集会が開かれた。イスラム教の宗派対立による暴動が、欧米権益施設への襲撃にまでエスカレートしたこともある。


 これに対し、政府は取り締まりを強化しつつ、民衆への配慮を示し、同国北部での空爆では、外国人の遺体がみつかったことを指摘して米国の攻撃を“正当化”する一方、米国に市民が巻き添えになったことを強く抗議した。十九日に拘束した野党指導者らも順次、釈放している。


 パキスタン民衆が反米意識をむき出しにする背景には、貧富の格差が拡大する中で貧困層に不満が鬱積(うっせき)していることも指摘されている。米中枢同時テロ後、親米路線に転換したパキスタンには支援国から経済協力金が流入したが、一部の特権層を潤したに過ぎず、国民の三分の一は貧困状態から抜け出せずにいる。イスラム指導者はそうした民衆の不満を反米組織の維持に巧みに利用してきた。ブッシュ大統領訪問で米国との協力推進を目指したいムシャラフ政権にとって、民衆の反米感情の高まりは大きなジレンマとなりそうだ。