非合法のムスリム同胞団系の候補が総選挙で躍進


■エジプト総選挙 非合法の原理組織 同胞団100議席も 「民主化」で躍進

◎【カイロ=加納洋人】九日から段階的に投票が実施されているエジプト人民議会選挙(定数四五四)で、非合法のイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」が大躍進し、ムバラク大統領率いる与党・国民民主党(NDP)による事実上の一党支配が続いてきた議会で第二勢力となることが確実となった。米国からの圧力を受ける形で「民主化」を進めるムバラク政権は、イスラム勢力伸長というジレンマに直面している。
 人民議会選挙は、大統領が任命する十議席を除く四百四十四議席について、九日から十二月初めにかけて三回に分けて投票が続いている。選挙前、NDPは議席の約九割を独占していたが、法務省の二十七日の発表によると、カイロやギザで行われた第一回投票とアレクサンドリアなどで行われた第二回投票でNDPは百九十五議席を獲得したものの、ムスリム同胞団も七十六議席と選挙前の十五議席から大幅に躍進し、最終的には百議席に達する勢いをみせている。
 その他の野党は、新ワフド党が四議席、国民進歩統一党が二議席などで、野党としても同胞団に“大敗”した形だ。
 ムスリム同胞団は一九二八年にエジプトで結成され、アラブ世界のイスラム原理主義の源流の一つとなったが、エジプトでは政治活動が禁止されており、「独立候補」を立てて選挙に臨んできた。
 九月に初の複数候補者による大統領選を実施したムバラク政権は今回、同胞団に対する表立った取り締まりを避け、同胞団側は「イスラムこそが解決だ」といったスローガンのもとに、かつてない大規模な選挙運動を公然と展開。貧富の格差解消や福祉重視の政策を訴え支持を広めた。
 第一回投票で同胞団の躍進が明確となり、危機感を強めたムバラク政権は、同胞団支持者ら約千人を拘束するなど、従来の“強圧策”に転換したが、もはや同胞団の勢いを止めることはできない状況となっている。
 同胞団が今回の選挙で過半数を得ることはないにしても、エジプト国内では、このまま同胞団の伸長を許せば、九一年のアルジェリア総選挙でイスラム原理主義勢力が躍進し、十年以上にわたる混乱に陥った「アルジェリア危機」の二の舞いを演じかねないとの懸念も出始めている。(産経)