石油相の空席が続く


■イラン石油利権 大統領Vs特権層 大臣空席続く


◎【カイロ=加納洋人】イラン強硬保守派、アフマディネジャド大統領が八月に就任して以来、石油相ポストが三カ月以上、空席のままとなっている。大統領は今月、三人目の石油相候補を指名したが、保守派が大勢を占めるイラン国会は二十三日、信任投票で否決した。石油行政をめぐる保守派内での対立が露呈した形で、石油利権にメスを入れようとする大統領と、国会内の保守派特権層の対立が激しくなっている。
 指名が否決された三人目の候補者は、国営石油化学会社に勤務するモフセン・タサロティ氏。大統領は八月の組閣で、テヘラン市長時代に財政面を補佐した側近のサイドルー氏を指名したが、国会は同氏が石油業界での経験がないとして信任を拒否。さらに二番目に指名された革命防衛隊出身のマフスリ氏は、信任投票直前に指名を辞退した。
 同大統領は六月の大統領選挙で、世界第四位の生産量を誇るイランの石油業界が「一部特権層に握られている」と批判し、石油収入の貧困層への再分配などを訴えていた。貧富の格差解消などを公約に当選した大統領が安易に同じ保守派とはいえ“特権層”と妥協した場合、国民の支持を失いかねない。それだけに、石油業界にメスを入れるという公約は、大統領が諸改革を進めるうえで、譲ることのできない一線となっている。
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 □日本エネルギー経済研 田中浩一郎研究主幹
 ■保守派内の相違浮上
 アフマディネジャド大統領はハタミ、ラフサンジャニ両大統領時代の巨大な石油利権を整理すると訴えて当選した。閣僚を仲間内で固めたい大統領の意図は明らかで、国会側に根回しをしない大統領の独断専行の姿勢に国会が感情的に反対している面もある。
 だが最も重要なのは、五、六月の大統領選を受けて、一九七九年の革命以降初めて、立法、司法、行政の三権を保守派が握ったことで、ハタミ大統領はじめ改革派という「共通の政敵」がいなくなり、保守各派の間で相違点が明らかになってきた点だろう。
 国会主流派を形成する保守派は、先の大統領選で別の候補を推したが、その候補は落選し、決選投票でアフマディネジャド候補に乗り換えた。同じ「保守派」といっても、思想的なねじれはもともとあった。そもそも大統領選に何人もの保守派が出馬したこと自体、保守派が一枚岩でないことを示している。
 アフマディネジャド大統領はいわば「新たな保守世代」。これに対し、国会議員のタバコリ氏ら国会主流派は、保守の中でも「守旧派」に属する。「新たな保守世代」はホメイニ革命の原理と原則に最も重きを置き、最高指導者ハメネイ師への絶対服従を誓うが、「守旧派」は外交や経済など他の要素も考慮すべきだ、という立場だ。
 ハメネイ師はこの十月、イスラム革命体制の基本路線を策定する最高評議会に、大統領に対する事実上の監督権を委ねた。ハメネイ師にすれば保守派の大統領誕生は望みどおりだったものの、アフマディネジャド大統領をコントロールできないことが悩みだろう。(談)
(産経)




■「露でウラン濃縮」案、焦点に 開発阻止へ米欧支持


◎【ベルリン=黒沢潤】国際原子力機関IAEA)の十一月定例理事会(三十五カ国で構成)は二十四日、イランの核問題をめぐる英仏独三カ国とイランとの交渉再開を求める内容を盛り込んだ「議長要約」を承認し、この問題の国連安全保障理事会への付託を見送った。ロシアが定例理事会前にイランに示した妥協案の調整が水面下で行われているためで、今後の焦点は、十二月上旬にも行われる同案についての関係各国の交渉に移る。


 妥協案は、イランがウラン濃縮の前段階にあたるウラン転換作業を自国で行うのを認める代わりに、濃縮はロシアが行うというもの。ウランは90%以上に高濃縮した場合に核兵器に使用できるが、3−4%の低濃縮なら原子力発電用の燃料にしかならない。ロシアで行うのは低濃縮作業で、製造された低濃縮ウランは原発用燃料としてイランに送り返される。


 今年八月にウラン転換を強行したイランに不信感を抱く米国と英仏独は、イランがいったん濃縮能力を持てば核兵器開発を阻止できなくなると懸念しているだけに、ロシアの妥協案を支持する姿勢を示している。
 イランが同案を受け入れるか微妙な情勢だが、「核問題が尾を引いている限り、イランとの政府間協力を手控えている国も多く、国際社会での風当たりも強い」(外交筋)のが実情。ただ、イランの真意が核兵器開発にあるなら受け入れられない案であり、イランの対応が注目される。


 ロシアが同案を提示した背景には、英仏独とイランの交渉が暗礁に乗り上げた中で、欧米に“恩”を売ると同時に、そのすき間をぬって原子力関連ビジネスを推進できるとの狙いがある。
 一方、イラン核問題の安保理付託を一貫して主張してきた米国も「核兵器開発をさせないというロシア案の趣旨を理解」(外交筋)し、イランの反応を見極める姿勢に転じたとみられる。
 英仏独とイラン、ロシアは十二月六日にも妥協案に関する協議を行う。ただ、二十四日の定例理事会の討議で、欧州連合(EU)代表は「イランとの交渉の窓はいつまでも開かれているわけではない」と述べ、イランが妥協案を受け入れなければ安保理付託もあり得るとの立場を強調した。
 定例理事会は二十五日、閉会した。(産経)