英BBC放送がアラビア語放送開設


■英BBC、中東に重心 東欧打ち切り アラビア語放送開設


自由主義確立へ アルジャジーラに挑戦

 【ロンドン=蔭山実】英国放送協会(BBC)の海外事業を担うBBCワールドサービスは、二〇〇七年からアラビア語のニュース専門チャンネルを開設する。
 冷戦崩壊後から続けてきた東欧向けの現地語での放送を打ち切り、その財源と人材を振り向ける。東欧向けサービスは東欧での自由主義の確立という戦後の使命を終え、欧米とイスラム社会の対立が問題になる現在、今度は中東の自由化に挑戦する狙いだ。

 BBCワールドサービスの責任者、ナイジェル・チャプマン氏は二十五日、チェコハンガリーポーランドスロバキアブルガリアなどで放送してきたニュース専門局を〇六年三月に閉鎖し、アラビア語の国際放送を開始する構想を明らかにした。

 開設には東欧でのチャンネル閉鎖で確保される計三千万ポンド(約六十一億七千万円)の財源と二百十八人の職員を充てる。
 当初は十二時間枠でスタートするものの、チャプマン氏は「〇八年にはニューメディアやFMラジオにも手を広げたい」と意欲的だ。

 BBCの国際放送は一九三二年に英本国と植民地を結ぶ国際ラジオ放送として始まった。国際テレビ放送が始まったのは九一年だが、国際放送の歴史は七十三年にも及ぶ。
 現在は四十三カ国語をカバーし、オンラインも含めると二億五千万人以上が視聴するという世界最大の放送網へと成長した。
 その存在が最初に注目されたのは第二次大戦中で、欧州向けの各国語のラジオ放送が戦況を知る貴重な情報源になった。それが戦後の冷戦期は東欧に重心を移し、旧ソ連圏で自由主義を浸透させる使命を帯びるようになり、冷戦崩壊後、テレビ放送にも着手した。

 チャプマン氏は「東欧でもいまや国民は自由を謳歌(おうか)している。東欧諸国の欧州連合(EU)加盟で欧州も根本的に変わった」と、東欧での放送打ち切りの理由を語る。
 それに代わるのがアラビア語のテレビ放送。もともとBBCが初めて開始した国際ラジオ放送は三八年からのアラビア語で、当時の英国にとっての中東の重要性を物語っている。

 BBCは九〇年代半ば、サウジアラビアの放送局と共同でアラビア語のテレビ局を開設する計画を進めたが、これが頓挫し、BBCの現地スタッフなどを奪われる形で、現在は「中東のCNN」と呼ばれるカタールの衛星テレビ局アルジャジーラが九六年に設立された経緯がある。それが今度はアルジャジーラに真っ向から挑むことになった。

 BBCの国際ラジオ放送は政府の助成金で運営されているが、国際テレビ放送は子会社による民間運営になっている。ところが、ブレア政権はアラビア語のニュース専門チャンネルの開設に助成金を投入することを決断した。
 BBCワールドサービスのリストラも兼ねているとはいえ、三千万ポンドという当初の財源規模はアルジャジーラをはるかに上回るという。