新憲法草案の国民投票を明日に控えて


イラク憲法案修正、あす国民投票 承認の公算高まる


◎【カイロ=加納洋人】イラク憲法草案の是非を問う国民投票が十五日に行われる。新生イラクの礎を築く節目となる重要な投票だが、草案策定過程で強まった民族・宗派間の対立が深刻化した。
 そのため、十二日夜になって、国民議会が草案の一部修正を承認するなど、投票直前まで、草案に反対するイスラムスンニ派勢力の支持取り付けの試みが続いた。
 草案修正を受け、スンニ派の一部は賛成に転じる姿勢を示しており、新憲法草案は承認される公算が高まっている。


 現地からの報道によると、首都バグダッドでは十三日、治安部隊が投票所周辺に検問所などを設置し、学校や政府関係の事務所も同日から十六日まで閉鎖されるなど、投票に向け警備態勢が強化されている。


 一方、イラク国民議会は十二日夜、スンニ派の意向に配慮した新憲法草案の修正案を承認した。修正点は次の通り。

    1. 憲法に基づく総選挙で選ばれた議会に憲法改正を協議する特別委員会を設置し、四カ月間で審議する
    2. イラクの統一を保証する
    3. クルド地域ではアラビア語クルド語を公用語とする
    4. バース党員は法の下で平等とし、公職追放措置を緩和する−の四点。

 スンニ派の有力政党イラクイスラム党のモフセン・アブドル・ハミド党首は同日、「われわれは投票に行き、賛成票を投じる」と発言。スンニ派のヤワル副大統領も修正を評価するなど、スンニ派の一部は賛成に転じる見通しとなった。


 さらに、シーア派教徒に大きな影響力を持つ同派最高指導者アリ・シスターニ師は同日、側近を通じて、イラク国民に対し、投票に参加し草案に賛成するよう呼びかけた。シーア派内では、反米指導者ムクタダ・サドル師らが連邦制反対の立場から草案反対の姿勢を示しているが、シスターニ師の発言により、シーア派の多数は賛成投票でまとまるとみられる。


 新憲法承認は十二月の本格政権樹立へと続く重要な政治過程であるだけに、「イラク民主化」を主導する米国は、草案が円滑に承認されるよう、シーア派クルド人勢力に対し、スンニ派勢力への懐柔策をとるよう促してきた。米国の仲介が一定の成果を収めた格好だがスンニ派内では依然として反対意見が根強い。


 スンニ派の法学者団体「イラクムスリムウラマー協会」は十二日、「根本的な修正がなされていない」として、投票を拒否するか、反対票を投じる方針を表明。さらに、スンニ派の横断的組織「イラク国民対話評議会」も草案反対の姿勢を示しており、スンニ派住民が多数を占める中西部のアンバル県などで相当数の反対票が出る可能性がある。

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イラク憲法草案の国民投票】1月30日の投票で選出された国民議会の憲法起草委員会が条文を作成。「イラク憲法草案を承認しますか」と書かれた投票用紙の下部には、アラビア語クルド語で「はい」「いいえ」と添え書きされたチェック欄が2つ並んでおり、有権者がどちらかを選択、投票する。
(1)賛成が全投票数の過半数に達し、
(2)反対票が全18県のうち3県で3分の2に達しなければ、
憲法が成立する。


 イラク選挙管理委員会によると、18歳以上の登録有権者数は1月の国民議会選挙(1430万人)より多い1550万人。選管は6200の投票所を設置、投票は午前7時から午後5時まで行われる。結果は数日後に発表される見通し。


 新憲法が成立した場合、任期4年となる正規の国民議会の総選挙が12月15日までに行われ、本格政権が同31日までに発足する。否決されれば議会は解散され、新たな暫定議会を選出する選挙が12月15日までに行われ、暫定議会は新たな憲法草案を起草。その可否を問う国民投票は来年10月までに行われることになり、復興プロセスは足踏みを余儀なくされる。(産経・改)




フセイン元大統領は公開裁判に


◎【バグダッド13日】イラクに侵攻した米軍によって拘束されたフセイン元大統領の犯罪を裁くイラク特別法廷のアル・ジュヒ裁判長は13日、今月19日からの裁判は報道陣に公開され、恐らくはテレビで生中継されることになるだろうと語った。

19日からの裁判では、フセイン被告と側近7人が1982年にバグダッド北方のシーア派のドゥジェイル村で起きた住民143人の虐殺事件に関与した容疑で裁かれる。有罪となった場合は死刑が宣告される可能性がある。ジュヒ裁判長は、フセイン元大統領に対して、他に12件の容疑での裁判も準備されていると述べた。

ただしジュヒ裁判長は、当日フセイン被告らが出廷して初公判が開かれたあと、審理が延期になる可能性があると語った。フセイン被告の弁護に当たるイラク人弁護士ドゥライミ氏は、被告との面会が十分に認められておらず、起訴状の詳細も知らされていないとして、初公判の場で審理延期を求める方針を明らかにしていた。〔AFP=時事〕




フセイン初公判を公開へ、TV生中継もOK


◎【カイロ=柳沢亨之】イラク元大統領サダム・フセインを裁く同国特別法廷のラエド・ジュヒ裁判長は13日、19日のフセイン初公判を報道機関に公開する、と発表した。
 テレビ生中継も認める意向だという。(読売)



アルカイダ書簡は本物? 米政府と過激派が論争


◎国際テロ組織アルカイダ幹部のアイマン・ザワヒリ副官がイラクアルカイダ機構のザルカウィ幹部にあてて書いたとされる書簡の真贋(しんがん)をめぐり、13日、米国務省と同機構の声明がぶつかり合った。

 米政府が11日に公開した書簡について同機構は「でたらめ」と否定する声明をインターネットで公開。「こんなものはブラックハウス(ホワイトハウスの皮肉)の政治家とその奴隷しか信じない。イスラム教徒はこんな安っぽいプロパガンダに乗るべきではない」とした。

 これに対し国務省のエアリー副報道官は「書簡は本物だ。アラブ各紙も報道した。アルカイダが過去の様々な時点で主張してきたことと内容が一致する」と反論した。

 同報道官は「我々とテロリストのどちらを信じるかだ。アルカイダより我々の信頼度の方が高いはずだ」とも語った。

 米政府が公開した書簡は、ザワヒリ副官がザルカウィ幹部に今後の対イラク戦略を語るとともに、人質の斬首を控えるよう求めたもので、アルカイダ内の路線対立もうかがわせる内容だった。(朝日)




■治安部隊20万人の訓練完了 イラク駐留米軍


◎【ワシントン13日共同】米国防総省は13日、イラク駐留米軍が訓練を終えた軍と警察などイラク人治安部隊が計20万人を超えたと発表した。一方で、治安部隊に武装勢力が潜入していることを公式に認めた。

同日、米議会に提出されたイラクの治安情勢に関する報告書は、米軍から独立して作戦を実行できるのはわずか1個大隊とした。

ブッシュ政権は、イラク憲法案承認の是非を問う15日の国民投票などの政治プロセスをにらみ、イラク人治安部隊の育成を急いで米軍の早期撤退につなげる構想だけに、ロイター通信によると、議会から早くも失望の声が上がっている。

報告書によると、イラク軍は88個大隊、警察などが28個大隊。国防総省当局者は最新の数字として、軍が約9万4000人、警察などが約10万6000人としている。




イラク、新憲法めぐる国民投票控え国境封鎖開始


◎[バグダッド 13日 ロイター] イラクは、15日に実施される新憲法の是非を問う国民投票に備え、抵抗勢力の妨害活動を阻止するため、4日間にわたる国境の封鎖を開始した。

 スンニ派の反対を和らげるため米国が仲介した合意により、スンニ派の一部は投票後に修正を検討することを条件に草案の支持を表明した。

 国内では、警官3人と米兵1人を含む少なくとも8人が死亡しているものの、治安強化対策は機能しているもようで、ある米軍幹部は、1月の総選挙キャンペーン時に比べ、1日当たりの攻撃は40%減少していると述べた。

 これまでのところ、有権者の4分の3を占めるシーア派クルド人は支持票を投じるとみられている。

 同国では、病院や刑務所で一足先に投票が開始され、ジャボル内務相は夜間外出禁止令とともに、現地時間14日午前零時(2100GMT、日本時間午前6時)から16日まで国境が封鎖されることを発表した。

 この4日間、商店は休業となるほか、この日夜から15日いっぱいは、個人の自動車の夜間走行が禁止される。




■米、スンニ派排除懸念 イラク憲法、15日に国民投票


◎15日に実施されるイラク憲法案の国民投票を前に、米国がスンニ派政党に投票への参加を促す一方、スンニ派地域で米軍による武装勢力の掃討を強めるといった、硬軟両面の作戦を進めている。
 これを機にスンニ派の市民と武装勢力を切り離し、投票後の治安を安定させようと狙ってのことだ。ただ、結果次第では逆効果となる可能性も指摘されている。

 米戦略国際問題研究所(CSIS)のコーデスマン研究員ら軍事専門家によると、武装勢力は推定1万5千〜6万人。イラクアルカイダ機構など外国人はうち1割程度で、大半は旧バース党関係者らイラク人とみる。
 中部スンニ派地域を拠点にしているが、地域の住民が必ずしも武装勢力を支持しているわけではない。

 国民投票の結果について、米ブッシュ政権は次の三つのシナリオを想定する。

(1)スンニ派を含む圧倒的多数で承認
(2)スンニ派の反対を押し切って承認
(3)スンニ派の反対で否決

 スンニ派の有力政党「イラクイスラム党」が賛成へと転じたことから、同政権は「(1)の可能性が高まりつつある」との楽観的な見通しに立つ。
 もっとも、憲法案は自治の拡大などシーア派クルド人勢力の要求に基づく連邦制を盛り込んでおり、スンニ派に魅力的な内容ではないのが現実だ。スンニ派投票率が上がっても憲法案への支持が増えるとは限らず、同政権の思惑通りに進むかどうか、不透明だ。

 (1)のシナリオが成立しない場合、ブッシュ政権に近い保守系シンクタンクアメリカン・エンタープライズ公共政策研究所」(AEI)のマイケル・ルービン研究員は「憲法案否決が望ましい」と(3)に言及した。「憲法案が通るか通らないかが問題ではない」という。

 憲法案が否決されれば、12月に再び国民議会選挙が実施され、新たな憲法草案の起草も求められる。手続き的には振り出しに戻るが、逆にスンニ派の政治参加が勢いづくことにもなり、米国としては「健全な民主主義が育っている」と主張できる。

 米側が「最悪のシナリオ」と考えるのが(2)のケース。スンニ派各州で「6割程度の反対を集めたものの承認される」といった場合だ。スンニ派の投票が「死票」になるため、住民の間で「投票しても意味がない」とのあきらめ感が広がり、武装勢力との連携を促しかねないとみられている。