ブッシュ大統領のイラク戦略大綱


イラク戦略 米大統領演説 治安部隊の育成強調 専門家ら「楽観論は危険」


◎【ワシントン=有元隆志】ブッシュ米大統領は十一月三十日にメリーランド州アナポリスの海軍士官学校で行った演説で、イラク駐留米軍の撤退に向けて不可欠なイラク治安部隊の育成の進展を強調した。同時に発表した「イラクでの勝利に向けた国家戦略」でも、二〇〇六年に兵力を一部削減する方針を盛るなど今後の展望を示すことで、国民の理解を得ようとした。ただ、専門家からはイラク治安部隊の能力に対する楽観論は危険だとの声も出ている。
 大統領が治安部隊の育成に焦点を当てたのは、政治、経済とともに、治安をイラクの安定に必要な「三要素」の一つと位置付けているためだ。
 大統領は演説で、百二十大隊を超えるイラク治安部隊がテロリストとの戦闘に参加、うち四十大隊が戦闘で中心的役割を果たしていると語った。
 「国家戦略」でも、訓練を受けた同国治安部隊は昨年九月の九万六千人から二十一万二千人以上に増加したと指摘した。
 大統領は「イラク治安部隊が経験を積むに従って米軍は能力を下げることなく兵力を減らせる」と説明、イラクの部隊が治安維持業務にもっと責任を負うようになれば、米軍は治安部隊の訓練や「イラク・アルカーイダ聖戦機構」を率いるヨルダン人テロリスト、ザルカウィ容疑者らの掃討に集中できるとしている。
 大統領は有力な国防族のマーサ下院議員(民主党)が約六カ月以内の米軍撤退を主張したことなどに対しても、駐留軍の規模は「ワシントンの政治家の人為的設定ではなく、司令官たちの判断で決定する」と反論した。
 イラク治安部隊の育成には「つまずきもあった。彼らの能力にはむらがある」と、育成が順調でなかった点も認め、そのうえで、「われわれの戦術は柔軟で可変的だ」と述べ、治安業務を当初の市民防衛隊からイラク陸軍に変更するなど改善を重ねたことで能力が増していると強調した。
 だが、中東問題専門家のテリル氏とクレイン氏は最近、米陸軍大学戦略研究所から出した論文で、「最も危険なのはイラク治安部隊の能力について、非現実的に楽観的になることだ」と警告している。
 両氏は、米軍撤退時に能力ある治安部隊が存在することがイラク政府にとって非常に重要である点は、武装勢力も明確に理解していると指摘。
 武装勢力が軍志願者や警察への攻撃を執拗(しつよう)に繰り返しているのも、このためで、イラク治安部隊の死傷者は米兵の二倍以上になっているという。
 両氏はイラク治安部隊の訓練が不十分なまま、実戦配備につかせると、「敵の抵抗の前に部隊は崩壊する。崩壊したら、米国には立て直すための時間はない」とした。
 ホワイトハウスは今回の演説を「勝利に向けた計画を説明する第一弾」(マクレラン報道官)と位置付けており、大統領は、十二月十五日に予定されるイラク国民議会選挙までに主要テーマに関し演説を重ねる予定だ。
     

 【「イラクでの勝利に向けた国家戦略」要旨】
 ■イラクでの勝利に向けて段階を設定
  短期−テロリストと戦い、民主的な体制をつくり、治安部隊を育成
  中期−イラクが主導してテロリストと戦い、立憲政治を定着させる
  長期−平和で統一され安定したイラクがテロ戦争のパートナーになる
 ■イラクテロとの戦いの中心にあり、イラクでの失敗はテロリストを増長させる
 ■敵は拡散し複雑
  敵は(1)(スンニ派を中心とした)「拒否派」(2)サダム主義者(3)国際テロ組織、アルカーイダ系のテロリスト−の組み合わせだ。いずれも短期的には脅威を与えることで共通するものの、長期的目標は互いに相いれない
 ■勝利戦略は明確
  政治的には敵を孤立させ、安定した国家機構を確立する。治安面では敵支配地を一掃、イラク政府の支配化に置き、法に基づく市民社会を建設する。経済面では社会基盤を復旧し、経済改革を行い、国際経済に復帰する
 ■勝利には時間を要する
  サダム・フセインが権力の座から追放されて三年以内に、民主主義が完全に機能すると予想することは非現実的だ
 ■勝利戦略は条件次第
  (撤退の)期限設定をして勝利した戦争などない。だが、条件が変化すれば、保証はできないものの、今後一年間に米軍のイラクでの態勢は変わると予想する。任務はイラクで勝利することであり、米軍は任務完了時点で帰還する(有元隆志)(産経)




■対ザルカウィ攻撃を準備 イラク武装勢力、分裂鮮明


◎【カイロ2日共同】1日付のアラブ紙アルハヤトは、イスラムスンニ派部族を基盤とするイラク武装勢力が、有力者暗殺への復讐(ふくしゅう)として、ヨルダン人のザルカウィ容疑者が率いる「イラク聖戦アルカイダ組織」など外国人中心の武装勢力に対する攻撃を準備していると報じた。
 一般市民を狙った無差別テロを続けるザルカウィ容疑者らと、以前からこれに批判的だったイラク武装勢力との分裂が鮮明になってきた。イラク武装勢力に対話を呼びかけ、ザルカウィ容疑者の孤立化を図るタラバニ移行政府大統領の戦略を勢いづけそうだ。
 イラクでは今週、イスラム聖職者協会の幹部らスンニ派の有力者2人が相次いで暗殺された。同紙によると、2人は15日の総選挙への参加や、外国人武装勢力との決別を訴えていた。




■米の勝利、55%が懐疑的 イラク問題で世論調査


◎【ワシントン1日共同】米CNNなどが1日発表した世論調査によると、米国がイラクで勝利できる計画をブッシュ大統領が「持っていない」とする回答は55%で、勝利計画が「ある」とした41%を大きく上回った。
 ブッシュ大統領は先月30日に「イラク勝利計画」と題した包括的なイラク政策演説で国民に支持を訴えたものの、懐疑的な見方が依然根強いことを裏付けている。
 ブッシュ氏のイラク問題への対応については「良くない」が54%、「うまくやっている」が44%と厳しい評価。ブッシュ氏が米軍撤退戦略の中心に据えているイラク軍の訓練に関し、将来「独立して治安維持が担える」とみているのは44%で、「米軍の支援なしでは無理」が54%だった。
 しかし、何らかの目標が達成されるまでは米軍が撤退すべきでないとの回答が6割で、おおむねブッシュ氏の政策が支持を得た。




■<イラク復興事業>米陸軍中佐を収賄容疑などで逮捕 司法省


◎米司法省は1日、イラク復興事業に関連した収賄や窃盗の容疑で、米陸軍予備役のマイケル・ウィーラー中佐(47)を逮捕したと発表した。復興事業関連での逮捕者は贈賄側の米国の建設業者を含め3人になった。同容疑者は11月30日に米国で逮捕され、有罪判決が確定すれば、最高刑は禁固30年と罰金25万ドルとなる。(毎日)




■<イラク駐留米軍>情報操作疑惑 国防総省に報告求める


イラク駐留米軍が米国に好意的な記事を地元紙に掲載料を払って秘密裏に提供していると報道された問題で、マクレラン米大統領報道官は1日の定例会見で「非常に懸念している」と語り、国防総省に報告を求めていることを明らかにした。同問題では、すでにペース統合参謀本部議長が調査を行う意向を表明している。(毎日)